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那覇地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決

原告

沖縄旭琉会

右代表者会長

富永清

右訴訟代理人弁護士

小野哲

伊多波重義

被告

沖縄県公安委員会

右代表者委員長

瀬長浩

右訴訟代理人弁護士

大濱和男

金子泰輔

右指定代理人

富田善範

外一二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  (主位的請求)

被告が、原告に対し、平成四年六月二六日付け沖縄県公安委員会告示第二五号により指定告示した暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七七号、以下「暴対法」という。)三条に基づく暴力団指定の処分を取り消す。

二  (予備的請求)

被告が、原告に対し、平成四年六月二六日付け沖縄県公安委員会告示第二五号により指定告示した暴対法三条に基づく暴力団指定の処分は無効であることを確認する。

第二  事案の概要

本件は、被告が、平成四年六月二六日、原告を暴対法三条の規定する暴力団(以下「指定暴力団」という。)として指定する旨の処分(以下「本件指定処分」という。)をしたのに対し、原告において、暴対法の違憲性、指定要件の欠缺等を主張して、主位的に本件指定処分の取消しを、予備的に本件指定処分の無効確認を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、肩書地に本拠を置き、平成二年九月二一日、三代目旭琉会を脱退した各一家の総長によって結成された組織である。

2  被告は、平成四年四月二三日、本件指定処分に先立ち、暴対法五条の規定に基づき、聴聞会を実施し、冒頭に、「指定をしようとする理由」として認定した事実を告知したところ、出席した原告代表者代理人は、暴対法三条に掲げる各要件に該当すると判断した根拠となる事実、資料等の開示を求めた上、あらためて意見を述べる機会を与えるよう求めたが、被告は、聴聞は資料開示の場ではないとして右要求を拒否し、聴聞会を終結した。

3  被告は、平成四年六月二六日付けで、暴対法三条の規定に基づき、原告を指定暴力団として指定し、同日、沖縄県公安委員会告示第二五号として官報に公示し、同月二七日、原告に対し、右指定された旨通知した。

4  原告は、国家公安委員会に対し、審査請求を申し立てたが、同委員会は、平成四年一二月三日付けで、原告の審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同月四日、原告のもとに送達された。

二  争点

1  原告の主張

(一) 指定要件の非該当性

原告は、三代目旭琉会会長翁長良宏の独断専行に反発した多数の関係者が三代目旭琉会を脱退し、三代目旭琉会の前身である沖縄連合旭琉会を継承する組織として原告を結成するに至ったものである。したがって、新組織においては、連合体としての性格が重視されるとともに、傘下各一家の意見が尊重されており、重要な方針の決定については、すべて総長会、理事会に諮っている。また、原告組織は、結成後間がなく、今後の組織のあり方について、明確な合意はなく、三代目旭琉会を脱退した各一家の相互協力、相互扶助という以上に、当該組織の威力を利用して、各一家の構成員の生計の維持、財産の形成又は事業の遂行の資産獲得を有利に展開するためという具体的な目的はないし、現にそのような具体的活動は全く行われていない。

しかるに、被告は、原告を、傘下組織を含め、全体が一個の団体と認められるとして、暴対法三条による指定処分をしており、右指定処分は、法令の適用を誤った違法がある。

(二) 指定手続の違法性

聴聞会の制度は、指定理由を明らかにし、それに対する反論の機会を与えることにより、処分を慎重ならしめようとする制度であるから、指定理由の告知は、実質的にその内容について反論可能な状況が保証されることが必要であり、聴聞会もまた、具体的な要件該当事実に関して行われることが必要であるが、前記争いのない事実等2記載のとおり、被告は、単に自ら認定した結論を告げたにすぎず、その判断根拠を一切示さなかったものであるから、原告に対し、十分な反論の機会を与えたことにはならないというべきであって、本件指定処分は、その手続において重大な瑕疵があり、違法であって、取消しを免れない。

(三) 暴対法の違憲性

仮に、本件指定処分の取消しが認められないとしても、暴対法は、暴力団に加盟していることのみを根拠に、その構成員に対し、一般市民とは異なる行動の自由の制限を課すことができるとするものであるところ、このような立法は、法の下の平等を宣言し、社会的身分による差別的な取扱いを禁じた憲法一四条及び結社の自由を定めた憲法二一条一項に違反する。

また、犯罪歴を有する者が、組織構成員等のうちに占める割合が一定比率以上を占めているとの要件を設ける(暴対法三条二号)ことにより、犯罪歴を有する者の結社の自由を著しく制限しているが、犯罪歴を有するということを理由に、そのような自由の制限を課することには、合理的根拠がなく、この点においても、憲法一四条及び二一条一項に違反する。

右のとおり、暴対法における暴力団指定の制度は、それ自体が憲法に違反しており、本件指定処分についても、当然に違憲、無効である。

2  被告の主張

(一) 指定要件の該当性

(1) 暴対法三条一号の目的の存否

暴対法三条一号が定める目的の存否は、名目上の目的にかかわらず、実質上の目的として、原告が、その構成員に原告の威力を利用させ、又はその構成員が原告の威力を利用することを容認していると認められるか否かであり、原告には、右実質上の目的が認められる。

なお、仮に、原告が、傘下組織構成員の相互協力又は相互扶助を目的として掲げ、原告の活動の中にこれに沿う活動実態があるとしても、原告構成員の殺人、恐喝等の暴力的不法行為の存在や対立抗争におけるけん銃使用等の実態が、原告の威力利用容認を肯認させるものである。したがって、原告の目的が、各一家の相互協力、相互扶助であり、各一家の構成員の生計の維持、財産の形成又は事業の遂行を有利に展開するという具体的な目的はなく、現にそのような具体的な組織活動も全く行われていないという主張だけでは、原告が右要件に該当しない理由となるものではない。

(2) 暴対法三条の単一組織の該当性

暴対法四条による指定は、同法三条により指定された暴力団を除くものとされ(同法四条)、同法四条により指定された指定暴力団連合が、同法三条により指定暴力団として指定されたときは、同法四条による指定を取り消さなければならず(同法八条三項)、法律上、同法三条による指定が原則とされている。

原告については、その傘下団体を含めて全体が一体性のある団体と認められ、かつ、同法三条各号の要件を満たす団体であり、被告が同条により原告を指定した点に違法はない。

(二) 指定手続(聴聞手続)の適法性

被告は、平成四年四月三日、原告代表者に対し、暴対法五条二項及び暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく聴聞の実施に関する規則(平成三年国家公安委員会第五号、以下「聴聞規則」という。)一四条一項に基づき、聴聞通知書を送達した。右聴聞通知書には、別紙記載のとおり指定をしようとする理由が記載されていた。

また、被告は、同月二三日に行った本件聴聞において、原告代表者の代理人に対し、聴聞規則一九条一項に基づき、別紙記載のとおりの指定をしようとする理由を告知した。

聴聞通知書に「指定をしようとする理由」としてどの程度の事実を記載すべきか、また、聴聞において「指定をしようとする理由」としてどの程度の事実を告知すべきかは、結局のところ、聴聞の性質と右理由を記載し、又は告知することとした暴対法五条二項、聴聞規則一四条一項、一九条一項の趣旨に従って判断しなければならない。指定をしようとする理由を記載した聴聞通知書を、聴聞に先立って送達し、又は聴聞の冒頭において右理由を告知するのは、暴対法三条指定の適正を図る趣旨で設けられた聴聞において、指定を受ける者に対し、同法三条各号の要件該当性の有無について、意見及び証拠提出の準備をさせ、実質的に攻撃防御を行うことができるようにする趣旨であると解されるが、本件聴聞通知書の理由付記及び本件聴聞における理由告知は、同法三条各号の要件に該当する事実を示しており、同法の趣旨に即して十分な記載及び告知がされたものであり、その他本件聴聞手続に違法はない。

(三) 暴対法の合憲性

(1) 憲法一四条違反の主張について

憲法一四条は、国民に対する絶対的な平等の取扱いを保障したものではなく、事柄の性質に応じて合理的と認められる差別的取扱いをすることは、同条の趣旨に反するものではない。暴対法は、暴力団員の民事介入暴力や暴力団同士の対立抗争によって被害が一般市民に及んでいる昨今の情勢に鑑み、市民生活の安全と平穏を確保するため、指定暴力団について反社会的かつ不当な行為を禁止するとともに、その違反等があった場合は、行政命令によりその違反行為を防止することを規定したものであって、暴対法による規制は、合理的な差別に基づく規制であり、指定された暴力団の構成員に対する合理的な理由のない差別ではない。

暴対法三条二号の要件は、暴力団に、犯罪経歴保有者が多数その構成員となっているという団体の特性に着目し、これを指定の要件としたものにすぎず、犯罪経歴保有者自身を犯罪経歴を有するという理由で別異に取り扱うものではないので、憲法一四条違反の問題が生じる余地はなく、また、ある団体が、その構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体か否かということは、指定を行う都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)との関係においてのみ問題になるのであって、憲法一四条一項にいう社会的身分に当たらない。

仮に、暴対法三条二号による指定が、団体間による差別的取扱いを定めた規定であるとしても、右取扱いには合理的な理由があり、憲法一四条には違反しない。

(2) 憲法二一条(結社の自由)違反の主張について

指定暴力団の指定は、法律上、その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為を助長するおそれが大きい暴力団(暴対法三条)又はその連合体(同法四条)として位置づけられることになるが、その効果として、直ちに暴力団の結社の自由を制限するものではないから、憲法二一条一項の結社の自由に関する問題は生じる余地はない。

仮に、これが暴力団員に関する結社の自由の制限であるとしても、憲法二一条が保障する結社の自由は、あらゆる場面に無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがある。そして、このような自由に対する制限が、必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、具体的制限の態様及び程度等を比較して決せられるべきである。

暴力団指定は、暴対法による規制の対象となる暴力団員を特定する処分であり、これによって保護しようとする利益は、暴力団員による暴力的要求行為又は暴力団事務所付近における迷惑行為、抗争等により侵害される市民生活の安全と平穏であり、昨今の暴力団員による民事介入暴力行為や、対立抗争の実態、市民の要望等に鑑みれば、暴力団員の行う右のような行為を規制し、市民生活の安全と平穏を確保する必要性は高い。他方、暴力団指定によって法律上一定の性格を有する団体と位置づけられたとしても、これによって直ちに当該団体の結社自体に何らの規制がかかるものでもない。

したがって、暴対法に基づく指定処分は、公共の福祉による必要かつ合理的な規制であり、憲法二一条一項に違反しない。

第三  争点に対する判断

一  暴対法成立の経緯

当事者間に争いのない事実等、乙一ないし七号証、乙八号証の一ないし二六、九号証の一、二、一〇号証、乙一一号証の一ないし一九、乙一二号証の一ないし一二、一三号証、一四号証の一ないし五、一五号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  近年における暴力団の実態等

(一) 暴力団の寡占化

昭和五六年末における、全暴力団の構成員及び準構成員(暴力団の構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を提供するなどして、その組織の維持運営に協力もしくは関与する者)の数は、全国で約一〇万三〇〇〇人であり、このうち主要な広域暴力団である山口組、稲川会及び住吉連合会(現住吉会)の三団体の構成員等の数は、合計約二万四〇〇〇人であった。しかし、平成二年末には、全暴力団の構成員等の数は、約八万八〇〇〇人に減少したにもかかわらず、右三団体の構成員の数は、約四万三〇〇〇人と大幅に増加し、全暴力団の構成員の約半数を占めるに至り、右三団体にその余の広域暴力団を含めた構成員等の数は、約七万三〇〇〇人に達し、全暴力団の構成員等の数の八〇パーセントを超えており、右三団体をはじめとする広域暴力団の勢力の拡大が著しく、これらの団体による暴力団の寡占化が急速に進行した。

広域暴力団の勢力の拡大は、主に、地方の中小の暴力団を系列化に収め、又はその構成員を吸収することによって行われたが、地方の中小の暴力団にとっては、これら広域暴力団の傘下に入ることによって容易に資金を獲得できることとなり、他方、広域暴力団にとっては、中小の暴力団をその傘下に入れることにより勢力を拡大できるという点において、双方の利害関係が一致していることから、広域暴力団の拡大、寡占化が一層進行していった。

(二) 暴力団による民事介入暴力の増加

そして、広域暴力団の勢力の拡大、寡占化によって、一般市民にもその名称及び活動実態等が知られることにより、その構成員が、暴力団の威嚇力を背景に、一般市民の日常生活又は経済取引において、民事上の権利者や一方当事者、関係者の形をとって介入、関与するいわゆる民事介入暴力が頻発するようになった。

暴力団員による民事介入暴力行為に関して都道府県警察が受理した相談件数は、昭和五六年には九六六五件であったが、平成二年においては二万二八四四件と大幅に増加した。

これらの民事介入暴力行為が犯罪に当たる場合であれば、これを検挙することにより被害の拡大を防止することが可能であるが、暴力団員の民事介入暴力行為の手口が巧妙になっていることから、犯罪として検挙の対象にならない事例が多く(実際、平成二年において受理した民事介入暴力行為の相談二万二八四四件のうち、犯罪として検挙したものは三〇五二件にすぎない。)、一般市民がこれらによる被害を甘受せざるを得ない状況となっていた。

暴力団員から民事介入暴力行為を受けた被害者は、直接暴力団員から大声で怒鳴られたり、にらみつけられたりすることで恐怖を感じるのみならず、暴力団員の要求をいったん断っても、複数の暴力団員が、自宅や職場に来たり、暴力団事務所に呼び出されたりして、場所を問わず執拗に要求されたり、場合によっては暴行を受けたりした。飲食店経営者が被害者となった事例では、暴力団員が店舗に長時間居座ったり、他の客に入れ墨を見せつけるなどの嫌がらせをしたり、店舗の什器を損壊したりした。

民事介入暴力の実情がこのようなものであることから、暴力団員から要求を受けた市民は、将来的に暴行、脅迫を受けること、家族に害が及ぶこと、要求や嫌がらせが際限なく続くこと等の不安を感じており、その精神的な苦痛の大きさは計り知れないものがあった。

一方、このような暴力団の威力を利用することにより有利に民事問題の解決を図ろうとして、暴力団員に対し、債権取立て、交通事故の示談交渉、不動産賃貸借のトラブルの解決などを依頼する者も少なからず存在し、このことが民事介入暴力行為が社会的に大きな問題になっていながら、容易に解決できない原因の一つになっていた。

(三) 暴力団間の対立抗争事件の多発

また、広域暴力団が勢力を拡大する過程において、他の暴力団との間で対立抗争が頻発し、特に広域暴力団同士の抗争は、全国的かつ長期的で、今後も勢力拡大の過程で続発する危険性を伴う状況にあった。

暴力団は、その組織、縄張り、資金源の維持、拡大のために、他の暴力団との間に対立抗争を起こした。このような対立抗争は、昭和六〇年に全国的な規模で多発した山口組と一和会との対立抗争(同年の対立抗争の総発生回数は二九三回であった。)が終結した後においても、平成元年には一五六回、平成二年には一四六回と、毎年頻繁に発生した。沖縄県においても、平成二年から平成三年にかけて、原告と三代目旭琉会との間で、四一回にわたり、けん銃等を使用した対立抗争事件が発生した。

右対立抗争においては、そのほとんどの事件でけん銃等の銃器が使用されており、暴力団の間では、組員一人につきけん銃一丁といわれるほど大量のけん銃が普及していた。

このような、銃器を使用した暴力団の対立抗争は、暴力団事務所付近の住民に多大な不安を与えるとともに、児童の通学路の変更、商店街の客足の減少等市民の日常生活へ甚大な影響を与え、さらには、市民が対立抗争の巻き添えになることも少なくなかった。実際、暴力団事務所付近の民家にけん銃が打ち込まれる事件が多数発生しており、また、対立抗争の巻き添えにより市民が死傷するという事件が、昭和六〇年から平成二年までに八件発生した。沖縄においても、平成二年一一月二二日には、原告と三代目旭琉会との対立抗争において、原告の構成員である沖縄旭琉会島袋一家伊志嶺組組員らが、三代目旭琉会傘下組織事務所前において、アルバイト作業中の高校生を組員と誤って射殺した事件が発生した。

暴力団相互の対立抗争が発生した場合、警察においても、構成員の検挙、暴力団に対する警告等を行うとともに、多数の警察官を暴力団事務所周辺に配置して警戒し、付近住民への被害の防止、事件発生時の現場検挙等に努めてきたが、これらの措置によっては必ずしも対立抗争を終結させることができず、長期間にわたり対立抗争が続くことも少なくなかった。

一方、暴力団においては、対立抗争に参加した構成員を賞揚する措置を採っているため、構成員のほとんどは、対立抗争が発生した場合には、犯罪を犯し、服役することになっても、抗争に参加するという考えを持っており、対立抗争の激化、長期化の一因となっていた。

(四) 暴力団事務所の存在による不安感

従来、暴力団事務所は、その外部に大々的に団体の代紋(団体のアイデンティティーを示す標章)や名称を記載した看板を掲げ、また、その周辺に一目で暴力団員と分かる者がたむろするなどしており、これによって市民が不安を感じ、また、暴力団事務所付近の商店等の客足が減少するなどの被害が発生している。

暴力団事務所についての不安、迷惑について、警察庁が民間調査機関に委託して、平成三年二月から三月にかけて政令指定都市を中心に全国一六都道府県の住民三〇〇〇名を無作為に抽出して行ったアンケート調査の結果(有効回答数二〇三九名)によれば、対立抗争の巻き添え、暴力団員の暴力団事務所周辺のうろつき、たむろ、暴力団員による暴力団事務所周辺の違法駐車、暴力団事務所の存在自体による威圧感、暴力団事務所に出入りする暴力団員の乱暴な言動等により、日常生活に不安、迷惑を感じている者は、全体の約八〇パーセントを占めている。

これらの日常生活の不安等から、暴力団事務所の撤去を求める住民運動が全国的に行われており、平成二年には、民事訴訟などの手続によって暴力団事務所の撤去が行われた件数は一九一件に達した。しかし、このような住民運動も容易に行えるものではなく、住民運動を行った者が、暴力団から嫌がらせを受けたり、関係者が暴力団員から傷害を受けるなどの被害が発生した。

また、仮に、このような住民運動等により、一定の場所から暴力団事務所を撤去することができても、結局は別の場所に暴力団事務所が開設されることになり、新たに開設された暴力団事務所付近の住民は、前述したのと同様の不安、迷惑を感じることになるので、暴力団事務所の撤去も、市民の右不安等を解決する根本的な手段にはなり得なかった。

(五) 暴力団についての世論

警察庁が民間調査機関に委託して、平成元年に一般市民三〇〇〇名を対象に行ったアンケート調査の結果(有効回答数二一六三名)では、暴力団を作ることを法律により規制することを望む者が全体の約七五パーセントを占めており、平成三年二月から三月にかけて行った前記(四)記載のアンケート調査の結果でも、暴力団に対する新たな規制法律制定の必要があるとした者及び暴力団員の民事介入暴力等についての国、自治体への要望として、暴力団員の民事介入暴力を禁止してほしいとする者が、それぞれ九〇パーセントを超えている。

(六) 暴対法の制定の必要性

従来、暴力団取締りの問題は、治安上の重要課題として、警察だけに限らず、民間その他様々の機関がこれに取り組んできたが、他方、暴力団側も、一般市民等に対し、不安、迷惑あるいは実質的被害を与える行為ではあるが、現行法令では必ずしも犯罪として検挙し得ないような、いわゆるグレーゾーンでの資金獲得を図る手段(民事介入暴力行為、企業対象暴力行為等)を考えるなど、警察の取締りに対抗する手段を考え出すに至っており、また、広域暴力団の拡大、寡占化に伴う対立抗争による一般市民の不安、迷惑等も、ますます増大していた。このような暴力団情勢の変化、変質に鑑み、新たな暴力団対策の必要性が行政及び民間の双方に認識されるようになった。

そこで、警察庁では、以上のような事情を踏まえ、現行法令下では十分にカバーされていない、あるいは現行法令に抵触しないような形で敢行されている暴力団員による各種の不当行為を規制していくべきであるとの結論に達し、暴力団員による非犯罪的不当行為を行政命令によって規制していくこと、警察としての治安責任を果たすため、暴力団相互間の対立抗争が発生した場合に、現在の緊急事態に対処する最低限度の対策を、行政的手法によって行うこと、民間における暴力団追放運動の促進を図る機構を整備すること等の内容を基本とする新法案を作成し、その成立を図ることとした。

2  暴対法の成立過程

暴対法の原案(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律案)は、平成三年四月一二日、閣議決定され、第一二〇回国会において衆議院に提出された。同法案は、衆議院地方行政委員会に付託され、同月一九日、審査の上、同委員会において採決され、同月二三日、衆議院本会議において全会一致で可決し、参議院に送付された。なお、右委員会において、「暴力団の不法、不当な行為による国民の権利、自由への侵害はいまや放置することができない実情にあることに鑑み、関係機関の協力を緊密にし、暴力団の壊滅のための総合的かつ有効な対策を確立することに努めるとともに、本法の的確な運用も含めて暴力団の不当行為及び犯罪の摘発、取締りを強化し、その解体と団員の更生を推進すること」等を政府の留意事項とする附帯決議が付された。

その後、参議院においては、同院の地方行政委員会に付託され、同月二六日、審査の上、同委員会において採決され(衆議院地方行政委員会と同内容の附帯決議が付された。)、同年五月八日、参議院本会議において全会一致で可決し、成立した。

そして、暴対法は、同月一五日に公布され、平成四年三月一日に施行された。

3  暴対法の概要(なお、以下に摘示する条文は、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律」(平成五年法律第四一号)による改正以前のものである。)

(一) 暴対法の立法目的

暴対法は、暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い、及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより、市民生活の安全と平穏の確保を図り、もって国民の自由と権利を保護することを目的とする(同法一条)。

そして、右目的を達成するための方法として、(1)暴力団員が行う一定の類型の民事介入暴力行為について行政的な規制を行い、市民の被害を防止すること、(2)対立抗争の早期鎮圧等を目的として暴力団事務所の使用制限を行い、対立抗争による一般市民に対する危害を防止すること、(3)暴力団員が、暴力団事務所及びその周辺において、一般市民に対して行う迷惑行為を防止するための措置を講ずること等の規制措置を行うこととしている。

(二) 暴対法の基本的仕組

暴対法による暴力団員の行為の規制の基本的な仕組は、次のとおりである。

(1) 指定暴力団の指定(同法三条、四条)

暴対法は、その規制対象となる者(暴力団員)を特定するため、一定の要件を満たす暴力団について、その暴力団の構成員が、集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定し、指定された暴力団(以下「指定暴力団」という。)の構成員(以下「指定暴力団員」という。)に対し、暴対法による規制が及ぶ。

(2) 禁止行為(同法九条、一六条、一八条)

指定暴力団員は、暴力的要求行為(同法九条)、加入の強要等(同法一六条)、事務所等における禁止行為(同法一八条)等を行うことが禁止される。

(3) 行政命令(同法一一条、一二条、一五条、一七条、一九条)

公安委員会は、指定暴力団員が右の規定による禁止行為を行った場合には、当該行為の中止等を命ずることができ、また、指定暴力団相互間で対立抗争が発生した場合において、一定の要件を満たすときには、当該指定暴力団の事務所を現に管理している指定暴力団員に対し、一定期間、当該事務所を、同法一五条一項に規定する用に供することを禁止することを命ずることができることとし、これにより指定暴力団員の行為の規制を行うこととしている。

(4) 罰則(同法三四条、三五条)

行政命令の実効性を担保するため、右命令に違反する行為を行った者に対する罰則を設けている。

(三) 暴対法三条の指定の要件

(1) 指定暴力団指定の趣旨及び概要

暴対法三条は、法による規制の対象となる者を特定するため、暴力団を指定することにより、その構成員である指定暴力団員以外の者が規制の対象とならないようにしている。

同法三条一ないし三号の各要件は、社会的に暴力団と認められている団体の特性を要件化したものであり、暴力団以外の団体は右各要件のうちいずれかの要件を具備しないことから、同法三条指定の対象となることはなく、指定されることはない。

そして、指定に当たっては、公安委員会による公開による意見聴取の手続がとられ(同法五条)、同委員会は、あらかじめ国家公安委員会の確認を求めることとされる(同法六条)等の事前手続を経ることにより、暴力団以外の団体が誤って指定されないための手続面での保障規定が設けられている。

(2) 暴対法三条一号(目的要件)

暴対法三条一号は、「名目上の目的のいかんを問わず、当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため、当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ、又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められること。」と定めている。

これは、暴力団員は、暴力団の威力を利用して様々な資金獲得活動を行っているが、暴力団の威力をその構成員に利用させ又はその利用を容認することが暴力団の実態である点をとらえて、これを実質上の目的として同法三条指定の要件としたものである。そして、右実質上の目的は、当該団体の活動実態等によって判断される。

(3) 暴対法三条二号(比率要件)

暴対法三条二号は、「国家公安委員会規則で定めるところにより算定した当該暴力団の幹部である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率又は当該暴力団の全暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が、暴力団以外の集団一般におけるその集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率を超えることが確実であるものとして政令で定める集団の人数の区分ごとに政令で定める比率(当該区分ごとに国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団において、その集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が当該政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となるものに限る。)を超えるものであること。」と定めている。

右規定は、暴力団には、暴力団員が犯すことの多い犯罪を行った経歴のある者が著しく多く含まれている事実に着目し、構成員又は幹部の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者がいる団体であることを要件としたものである。犯罪経歴保有者比率は政令で定められているが、右比率は、いわゆる二項分布という確率計算の方法により、集団の人数の区分に応じて、国民の中から任意に抽出した集団における犯罪経歴保有者の占める比率が、政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率を算出して規定したものである(暴対法施行令一条)。

この要件は、暴力団以外の集団であれば、その構成員の犯罪経歴保有者の比率が、右施行令一条に定める比率以上になることが現実的にあり得ないといえるだけの確率を持った比率を定めることにより、暴力団以外の団体が指定されないようにするものであり、暴力団以外の団体と暴力団とを区別する客観的かつ明確な基準として規定されたものである。

また、同号にいう「幹部」とは、同法三条三号の要件とされている階層的組織構成の上層部にある者を意味し、その範囲は、(1)当該暴力団を代表する地位にあること、(2)当該暴力団の運営を支配する地位にあること、(3)そのほか、当該暴力団の活動に係る事項について当該暴力団の他の暴力団員に対し、指示もしくは命令をすることができる地位の階層又はこれに相当する地位の階層であって、当該階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数を、当該階層より上位の階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数に加えた場合において、その合計数が、当該暴力団の全暴力団員の人数の五分の一を超えることとなるものより上位の階層に属していること、以上のいずれかに該当する者とされている(暴対法施行規則二条)。

(4) 暴対法三条三号(団体要件)

暴対法三条三号は、「当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者の統制の下に階層的に構成されている団体であること。」と定めている。

右規定は、暴力団が、組長、総長あるいは会長等の名称で呼ばれる最上位に位置する者の統制の下に、様々な役職、地位が定められ、そのうち同等の者の集団が一つの階層をなし、それぞれが段階的な階層をなして構成されているという特徴を有することから、団体の階層性を要件としたものである。

二  原告の組織構成及び活動実態

当事者間に争いのない事実等、甲一、二号証、三号証の一ないし三、四号証の一ないし一八、乙一六ないし二四号証、二五号証の一ないし一五、二六号証の一ないし二三、二七号証、二八号証の一ないし一九、二九号証の一ないし四、三〇号証の一ないし八、三一号証の一、二、三二ないし四三号証、四四号証の一ないし三、四五、四六号証、証人玉城正幸の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告の沿革(当事者間に争いがない。)

沖縄においては、戦後、コザ派、那覇派等複数の暴力団が、離合集散を繰り返していたが、沖縄の本土復帰を控えた昭和四五年一二月、本土暴力団が県内に進出することを阻止し、縄張りの維持等組織防衛を図るため、大同団結して、沖縄連合旭琉会を結成した。

その後、同会は、昭和五一年一二月、多和田真山を会長に迎え、沖縄旭琉会と名称を改め、さらに昭和五三年九月、名称を二代目旭琉会と改め、昭和五五年一〇月ころ、本土の暴力団と同様に、親分、子分の盃事を行うことにより、擬制血縁関係を結ぶ制度を導入するとともに、一家総長制度を導入し、従来の各組、グループを統廃合して一家とし、その長を総長とするほか、上納金制度を取り入れるなどして、本土の暴力団と同様の組織形態をとり、組織の改編、強化を図った。

昭和五七年一〇月に、多和田真山が射殺されたため、昭和五八年五月ころ、翁長良宏が会長となり、同年一〇月に名称を三代目旭琉会と変更した。

原告代表者富永清(以下「富永」という)は、沖縄連合旭琉会が結成された当時、同会の幹事長となり、二代目旭琉会においては理事長となり、三代目旭琉会においても理事長の地位にあった。

三代目旭琉会の発足以来、五年ほどの間は、組織内部における対立もなく、平穏であったが、昭和六三年ころから、翁長会長は、傘下組織である各一家から、幹部ら数名を出させて、会長付きといういわゆる側近グループを制度化し、そのころから、組織運営に関し、総長会に諮ることなく独断で事を決することが多くなり、一家総長らから次第に不満が出るようになった。そして、平成二年四月ころ、翁長会長は、本土暴力団五代目山口組に対し、友好団体として親戚付合いすることを独断で申し入れた。これに対し、同月一〇日に開かれた三代目旭琉会定例総長会議において、辻一家総長の泉操が批判的な意見を述べたところ、翁長会長は、同人を絶縁処分にしようとした。また、同年五月ころには、大城一家総長大城孝章を総長会に諮ることなく一方的に絶縁処分にしようとし、同会の多数の総長の反発を招いた。このような翁長会長の独断的なやり方に反発する勢力は、当時理事長であった富永の下に集まり、翁長会長を中心とする会長派と、富永を中心とする理事長派が対立するようになった。そして、大城孝章の処分を巡ってそれぞれ組員を事務所に集結させるなどして一触即発の状態になったが、山口組関係者らの仲裁もあって、一応和解した。

ところが、同年九月、理事長派の元丸長一家巴組構成員の金城宏が、会長派の丸長一家仲程盛昌にけん銃を発砲して重傷を負わせるという事件が発生し、翁長会長が富永ほか数名の理事長派の幹部を絶縁処分にしたため、理事長派の九一家総長は、三代目旭琉会に対して脱会届を出して一家ごと脱退し、同月二一日、脱退したメンバーにより新たに沖縄旭琉会を結成し、同年一〇月ころその組織構成を決定し、団体としての活動を開始し、五一家が残った三代目旭琉会と激しく対立抗争を行った。

2  原告の組織構成及び運営

(一) 組織構成

(1) 一家総長制

原告は、三代目旭琉会が分裂し、その一部の構成員により結成された団体であり、その組織構成は、三代目旭琉会と同様、一家総長制を採用している(以下、分裂後の三代目旭琉会のことを「分裂後の三代目旭琉会」ということとし、単に「三代目旭琉会」というときは、分裂前の三代目旭琉会を指すものとする。)。

すなわち、原告においては、本部の傘下に一家があり、さらに一家の傘下に組が置かれている。原告の構成員は、会長、最高顧問、会長代行、理事長、副会長、本部長(なお、会長、最高顧問を除く以上の者は、一家の総長でもある。)、役付きでない総長(一家の長)、組織運営委員、理事、幹事及びその他の組員(組織運営委員以下の構成員は、それぞれ傘下の一家又は組に属している。)に分かれている。

なお、原告結成に当たり、会長と各一家の総長等の間で、いわゆる盃事等の儀式は行われていない。

(2) 会長の地位

原告代表者は、原告結成の段階で、それまで富永一家総長であったところ、同地位を二代目総長に継承させ、一家の総長の地位から離れて会長となった。そして、会長の護衛役として、傘下組織の富永一家六名の構成員が、会長付(会長護衛)としてついているほか、各傘下組織から、交替で三名の会長当番がついている。

(3) 原告構成員の名称使用

原告の傘下組織においては、原告の名称(沖縄旭琉会)を冠してそれぞれの名称を名乗り、名刺や絶縁状等にも使用しており、原告の代紋を使用している。また、原告が沖縄旭琉会名義で作成している他の暴力団にあてた書状においては、右組織運営委員以上の者が名を連ねるとともに、それ以外の者については、「理事一同」、「幹事一同」、「組員一同」と記載されている。

(二) 組織運営

(1) 原告の組織運営機関

原告の組織運営機関として、総長会、組織運営委員会、理事長会等があり、それぞれ各一家から選出、推薦された委員、理事等によって構成されている。

① 総長会

総長会は、会長及び各一家の総長によって構成され、三代目旭琉会との対立抗争がいったん沈静化した平成三年三月以降は毎月一回ないし二回定例で開かれている。そこでは、総長、組織運営委員、理事等の昇格、総長等の破門、絶縁といった組織の人事に関する事項、対立抗争の際の対応方針、友好関係に立つ暴力団の選定、他の暴力団の行う冠婚葬祭等の儀式(いわゆる「義理掛け」)に対する出席者の決定という他の暴力団との関係に関する事項、暴対法対策等の警察との関係に関する事項等の重要事項についての協議がなされ、総長会の場において会長により最終的な意思決定がされる。

そして、このようにして決定された運営方針は、総長を通じて傘下組織構成員に指示され、又は組織運営委員会等で伝達され、各組織運営委員等を通じて、傘下組織構成員に伝達される。さらに、組の幹部は、それらの指示事項等について、自己の配下組員に対し、指示を行い、各組員は、右指示を遵守している。

② 組織運営委員会

組織運営委員会は、各一家から三名ずつ選出された組織運営委員で構成され、各一家内における原告の運営方針等についての意見、要望を集約して総長会に報告したり、総長会において決定された事項を伝達して、傘下組織に対して徹底するように指示すること等をその役割とする。

③ 理事会、幹事会

理事会、幹事会は、理事、幹事によって構成され、定期的に開かれるものではなく、当番に当たる総長が出席して、総長会で決定した事項を伝えるものである。

三代目旭琉会においても、原告と同様に、総長会、組織運営委員会、理事会、幹事会という同名の幹部組織を構成し、総長会が組織の最高決定機関であり、組織運営委員会は、各一家の要望を取りまとめて総長会に報告し、その決裁を求める機関であり、総長会における決定事項が、理事会、幹事会で伝達されていた。

(2) 構成員の加入、脱退

新規に加入する構成員は、原告の傘下組織に属することにより、原告の構成員となるのであり、各傘下組織の長の裁量に委ねられている。そして、脱退、排除については、傘下組織の長により、破門(団体から追放する処分であるが、後に復帰の可能性を残すもの)、絶縁(将来的に組織に復帰することを認めないもの)等の処分が科され、その際には、処分を受けた者が、今後原告及び当該傘下組織と関係のないことを記載し、原告の代紋の印刷された絶縁状等が関係暴力団に発送される(当事者間に争いがない。)。

(3) 三代目旭琉会との類似性

以上述べたように、原告は、三代目旭琉会が分裂して結成された組織であり、一家総長制を採用し、総長会において意思決定をする等、基本的な組織構成、運用等において三代目旭琉会と共通点が多い。また、三代目旭琉会において使用されていた旭琉会規範(乙三六号証)及び旭琉会会則(乙三七号証)に代わる新たな規範、会則等は、原告において作成されず、代紋も三代目旭琉会のものをそのまま使用した。

(三) 原告の活動状況

(1) 分裂後の三代目旭琉会との対立抗争

原告は、平成二年九月ころから、平成三年九月ころにかけて、分裂後の三代目旭琉会との間で、原告から分裂後の三代目旭琉会に対する攻撃が二三回、分裂後の三代目旭琉会から原告に対する攻撃が一八回、合計四一回にわたる対立抗争を繰り返した。

対立抗争においては、両組織とも、相手方からの攻撃に備え、本部事務所や傘下組織事務所を防石用金網、防弾用鉄板で防護するなどして事務所を要塞化するとともに、傘下組織構成員が、本部事務所、会長宅などに集結して襲撃に備える一方、相互に相手方構成員の動向を偵察して、相手方組員を発見すると、場所を問わずけん銃を発砲して殺傷したり、相手方事務所に対してけん銃を発砲するなどの犯罪行為を繰り返した。このような攻撃は、各傘下組織(一家)ごとに行うことが多かったが、複数の傘下組織の組員が共同して攻撃を行うこともあった。

また、平成二年一一月二二日、原告構成員が、相手方構成員と誤認して、一般人である高校生を殺害する事件が発生し、一般市民の暴力団排除運動及び警察の取締りが強化されたことから、富永が、対立抗争を控えるように指示し、同指示を末端構成員まで遵守させるなどしたことにより、同月二五日を最後に対立抗争もいったん沈静化した。しかし、その後も両団体の間で、反目が続き、平成三年八月二〇日、分裂後の三代目旭琉会構成員及び五代目山口組構成員が、原告構成員を殺傷する事件が発生したことにより、再び同年九月にかけて、対立抗争が発生した。

結局、富永は、平成四年二月一三日、報道機関記者等に対し、対立抗争の終結宣言を出し、また、分裂後の三代目旭琉会においても、同年三月に同様の宣言を出し、以後、同種抗争は発生していない。

(2) 原告構成員の活動及び検挙状況

原告に係る暴対法施行規則三条一項の基準日である平成四年三月一〇日時点における構成員の総数は、約五七〇名である(当事者間に争いがない。)。

沖繩県警の調査によれば、平成二年九月から平成四年三月一〇日までの間に警察に検挙された原告構成員は、一八二人(殺人二五人、傷害三〇人、暴力行為一五人、恐喝一一人、窃盗一五人など刑法犯一五四人、銃刀法二二人など特別法犯二八人)に上る。なお、前記分裂後の三代目旭琉会との対立抗争に関連して、原告構成員からけん銃一三丁が押収され、一一六人の構成員が検挙された。

また、相手方に原告団体名を告げるなどして、債権取立て、みかじめ料徴収、飲食店等に対する物品の購入、リースの要求、慰謝料名下の金員要求、交通事故示談介入といった違法、不当な資金獲得行為を行っており、平成二年一〇月から平成四年四月までの間で、原告の構成員が、このような資金獲得のために恐喝等の犯罪行為を犯し、又は資金獲得行為の過程で傷害等の犯罪行為を犯したため、警察に六名が検挙された。

そのほかにも、被害相談等により沖縄県警が把握している原告構成員の威力を利用した資金獲得行為は六三件、人員は延べ九四人に上っている。

三  本件指定の際の聴聞手続

当事者間に争いのない事実等、甲三号証の一ないし三、乙三四、三五号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被告は、平成四年四月三日、原告代表者富永に対し、暴対法五条二項及び聴聞規則一四条一項に基づき、指定聴聞のための聴聞通知書(沖公委(暴)発第二号)を送達した。右聴聞通知書には、聴聞の期日は、平成四年四月二三日午後一時三〇分からとされ、別紙のとおり、指定をしようとする理由が記載されていた。

聴聞手続は、平成四年四月二三日午後一時三三分から、那覇市泉崎一丁目二番二八号海邦会館四階Bホールにおいて行われ、原告からは、代理人として二代目富永一家総長の上江洲丈二が出席した(以下「原告代理人」という。)。そして、聴聞手続の冒頭において、聴聞官から、指定をしようとする理由が告知された。これに対し、原告代理人は、意見陳述において、(1)組織の威力を背景にして資金を得ているという根拠資料、(2)幹部及び構成員の氏名並びに犯罪経歴保有者の認定根拠となる資料及び犯罪経歴の範囲、(3)階層的組織構成の具体的判断基準についてそれぞれ明らかにすることを求め、右各事項の基礎となる資料をすべて開示した上で、聴聞を続行してあらためて意見を述べる場を設定することを求めた。

これに対し、聴聞官は、資料の開示要求については、聴聞は資料開示の場ではないとしてこれを拒否し、右(1)については、立会警察職員が、原告の構成員が、原告の威力を利用して資金獲得行為を行った具体例を二つ挙げ、同様の事例が多数あることを説明した。そして、聴聞官が、右(2)について、原告の全構成員は五七〇人と把握しており、そのうち暴対法施行規則二条に該当する幹部は、理事以上の地位にある者で、その人数は九〇人から九四人であること、右(3)について、原告は、会長以下、会長代行、理事長、総長というように、ピラミッド型に組織が構成されている旨説明した。

原告代理人は、堅気になったもの(脱退者)もいるので、指定をする際に、警察の資料だけで認定するのではなく、組員に確認すべきである旨述べたが、それ以上意見の陳述はなく、同日午後二時一七分、聴聞が終結された。

なお、右聴聞に際し、原告側から証拠の提出はなかった。

四  以上の事実を前提に、各争点について検討する。

1 暴対法三条適用の適法性について

暴対法による指定には、一体性のある一個の団体に対して適用する同法三条による指定と、指定暴力団の連合体に対して適用する同法四条による指定とがあるが、このうち同法三条による指定が原則であり、同法三条による指定の要件が満たされる場合には、同条による指定がされることとなる(同法八条三項)。そして、被告は、本件指定処分に当たり、原告の組織実態について検討した結果、傘下とされる組織も含めて一体性のある団体と認め、同法三条による指定をしたものである。

(一)  原告の一体性について

ところで、原告は、原告は一体性のある団体ではなく、各一家を単位組織とした連合体である旨主張するので、まずこの点について検討する。

(1)  沿革(三代目旭琉会との目的、性格等の異同)

前記のとおり、原告が三代目旭琉会を脱退した構成員により結成された団体であること、原告の組織構成は、三代目旭琉会と同様の一家総長制を採っていること、原告の名称が三代目旭琉会の前身である沖縄旭琉会と同一であること、原告の構成員の地位の名称は、三代目旭琉会と同様、会長、総長、組織運営委員、理事、幹事等とされていること、原告の本部事務所は従前の三代目旭琉会の本部事務所と同一の事務所であること、原告の代紋は三代目旭琉会の代紋と同じであること、原告結成に当たり新たに規約、綱領等を作成していないこと、原告において、三代目旭琉会当時に使用されていた綱領を使用していることに照らせば、原告の目的、性格等は、三代目旭琉会と実質的に変わりがないものと認められる。

(2)  組織構成

前記のとおり、原告が作成している他の暴力団にあてた書状には、傘下組織の構成員を含めて、会長以下末端の構成員に至るまで、その地位が連記されていること、原告の傘下組織の構成員が作成する名刺に「沖縄旭琉会」の肩書、代紋が記載され、「沖縄旭琉会本部」の名称と住所等が記載されていること、原告の傘下組織の構成員の絶縁状には、沖縄旭琉会とは一切関係ない旨の記載がされていること、原告の傘下組織の構成員が沖縄旭琉会の者と名乗ることが容認され、すべての傘下組織の構成員が同一の沖縄旭琉会の代紋を使用していること等に照らせば、原告が末端に至るまでの全構成員により構成される団体であることは明らかである。

また、前記のとおり、原告の会長は、原告結成に当たり、一家の総長の地位を離れて原告の会長になったこと、会長当番と呼ばれる各一家の構成員が会長の護衛に当たっていること、会長は、各一家の総長に対して指示命令をすることができること等に照らせば、原告は、一家の連合体ではなく、全構成員により構成される団体であると認めることができる。

ところで、擬制的血縁関係とは、暴力団において、その構成員の間に親子又は兄弟の関係を擬制するものであり、本土の暴力団においては、伝統的に盃事を行うことにより、擬制的血縁関係を結ぶこととされていたが、今日では必ずしも盃事を行わないことが認められる(乙四〇号証)。

一方、沖縄の暴力団においては、当初から、構成員の間に親子又は兄弟の擬制的血縁関係があるものとされていたが、盃事は行われておらず、二代目旭琉会当時から、本土の暴力団に倣い、盃事を行うようになったが、それは、従前から存在していた擬制的血縁関係を前提として、盃事という儀式を行うようになったものにすぎなかった。ただし、盃事を行うようになったのは、会長と各総長の間と、一部の傘下組織だけであり、三代目旭琉会においても、多くの傘下組織では、盃事を行っていなかったが、旭琉会規範(乙三六号証)及び旭琉会会則(乙三七号証)などからも、その構成員の間に擬制的血縁関係があるものとされていたことが認められる(乙一六、一九、二七、四〇号証、証人玉城の証言、原告代表者尋問の結果)。

そして、前記のとおり、原告は、三代目旭琉会と同様の一家総長制を採り、会長の下に各総長がおかれていること、原告の傘下組織についても、本部の傘下に一家が置かれ、一家の傘下に組が置かれるという組織構成が採られていること、三代目旭琉会の傘下組織が基本的にはそのまま原告の傘下組織になっていること、原告結成に当たり擬制的血縁関係を廃止するとの合意はされていないこと、原告の傘下組織において、一家の総長が親であると認識され、傘下組織の構成員同士が兄弟の関係にあると認識されていること(乙三六、三七号証、証人玉城の証言)等に照らせば、三代目旭琉会と同様、原告においても、会長と各総長との間、総長と構成員との間にそれぞれ擬制的血縁関係があるものと認めることができる。

以上から、原告においては、会長を頂点とする擬制的血縁関係の連鎖が形成されていることが認められる。

(3)  組織運営の方法

前記のとおり、原告の組織運営に関する重要事項については、総長会で各総長の意見を聞いて、最終的に会長が決定し、又は会長が各総長に対して、指示命令をすることとされている。そして、総長会における決定事項又は会長の指示命令は、各総長を通じて傘下組織の構成員に伝達されている。傘下組織の構成員は、総長会の決定事項や会長の指示命令を遵守することとされており、現にこれを遵守している。

(4)  団体としての活動

前記のとおり、原告が、分裂後の三代目旭琉会との間で行った対立抗争は、三代目旭琉会が一部の構成員を絶縁処分にしたことを契機として組織が分裂したことが原因であり、相互にその組織の存亡をかけた争いであって、組織的に一体となって行われたものである。

そして、前記のとおり、原告の幹部は、三代目旭琉会から分裂して原告を結成するに際し、当然対立抗争に発展することを認識していたことが推認でき、このような対立抗争において、原告の傘下組織の構成員は、本部事務所や会長の自宅等に多数集結してその防衛に当たり、分裂後の三代目旭琉会との間で、相互に相手方の傘下組織の構成員に対して攻撃を行った。また、対立抗争の当初の段階では、原告の会長や総長らは、傘下組織の構成員に対して対立抗争を禁止したり、自粛を求めることはなかったが、平成二年一一月二五日以降は、会長が、対立抗争の自粛を指示し、対立抗争が沈静化し、原告の執行部名義で対立抗争の終結宣言をしてからは、全構成員がこれに従い、対立抗争は発生していない。

以上の事実を総合すれば、原告が、傘下組織も含めて一体性のある団体であることは明らかであり、原告の主張は採用できない。

(二)  暴対法三条各号要件該当性

(1)  暴対法三条一号(目的要件)該当性

①  原告の暴力団としての威力の存在

前記のとおり、原告は、約五七〇人の構成員を擁する暴力団であるが、原告の構成員の多数が、殺人、傷害、恐喝等の暴力的不法行為を行っている。

原告は、前記のとおり、分裂後の三代目旭琉会との間で対立抗争を行ったが、右抗争において、原告構成員が、相手方構成員に向けてけん銃を発砲して殺傷したり、相手方事務所に向けてけん銃を発砲するなどの凶悪な犯罪行為を敢行しており、その過程において、一般市民を巻き添えにしている。右抗争に関連して原告の構成員から押収されたけん銃は一三丁あり、殺人、殺人未遂等で一一六人の構成員が検挙されている。

そして、原告に関する以上のような事実は、新聞、テレビによる報道を通じて、他の暴力団員ばかりでなく、一般市民にも広く知れわたっており、原告は暴力的性格を有する団体であるという認識及び印象が社会的に形成されていて、暴力団としての威力が存在している。

また、原告を含む暴力団には、一般に入れ墨、断指等の風習があり、その構成員の服装、言動、使用車両等にも一種独特なものがあることは一般に広く知られており、一般市民から見ても、当該人物が暴力団員であることが容易に識別できるものが多いということができる。

②  原告構成員の原告の威力を利用した資金獲得行為の実態

前記のとおり、原告の構成員は、相手方に原告団体名を告げるなどして、債権取立て、みかじめ料徴収、飲食店等に対する物品の購入、リースの要求、慰謝料名下の金員要求、交通事故示談介入といった違法、不当な資金獲得行為を行っている。そして、平成二年一〇月から平成四年四月までの間に、原告の構成員が、このような資金獲得のために恐喝等の犯罪行為を犯し、又は資金獲得行為の過程で傷害等の犯罪行為を犯したため、警察に六名が検挙され、そのほかにも、被害相談等により沖縄県警が把握している原告構成員の威力を利用した資金獲得行為は、六三件、人員は延べ九四人に上っている。

右のような犯罪行為の被害者が、自ら進んで警察に被害申告、被害相談等を行うことは少なく、むしろ被害申告をしたことによるお礼参りを恐れて被害申告等を行わないことの方が多く、警察で検挙した事件は実際の被害事案のごく一部ということができる。

③  原告構成員の威力利用行為を原告が容認している実態

右②で述べたように、原告の構成員は、原告の構成員であることを告知するなどして、種々の資金獲得行為を行っている。このような行為のうちの一部が犯罪行為に当たるとして、構成員が警察に検挙されているにもかかわらず、原告は、右行為を禁止しておらず、また、これらの犯罪行為によって有罪判決を受けた場合であっても、その構成員に対して破門等の処分を課したりしておらず、依然として原告の構成員として活動している。

また、原告と、分裂後の三代目旭琉会との対立抗争は、組織の存亡をかけた争いであったが、右対立抗争において敗れ、組織が壊滅することは、構成員からすれば、以後団体の威力を利用した資金獲得行為ができなくなることとなり、一方、対立抗争に勝てば、従来相手方組織が利用していた資金源を吸収することができるなど、その結果によって、その後の構成員の資金獲得行為に大きな影響が出るものであった。

ところで、一般に、暴力団が、対立抗争に組織的に一体となって対応した際、対立抗争に参加した構成員が、有罪判決を受け、服役した場合、組織において、その家族の面倒を見たり、出所後に放免祝を行うなど、構成員が、右対立抗争に参加することを賞揚、援助する態度を採ることが行われている。そして、そのことによって、構成員が対立抗争に参加しやすくなり、その結果、相手方暴力団に打撃を与え、構成員の資金獲得行為の途を確保することにつながる。

以上のとおり、原告は、暴力団としての威力を有しており、原告の構成員が、右威力を利用して資金獲得行為を行うことを容認していると認められるので、暴対法三条一号の目的要件を満たしているということができる。

(2)  暴対法三条二号(比率要件)該当性

原告に係る暴対法施行規則三条一項の基準月である平成四年三月一〇日時点における、原告構成員の総数は、約五七〇人である(当事者間に争いがない)。

同規則二条によれば、暴対法三条二号に規定する暴力団の幹部の要件は、(1)当該暴力団を代表する地位にあること(一号)、(2)当該暴力団の運営を支配する地位にあること(二号)、(3)右(1)(2)のほか、当該暴力団活動に係る事項について、当該暴力団の他の暴力団員に対し指示もしくは命令をすることができる地位の階層又はこれに相当する地位の階層であって、当該階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数を、当該階層より上位の階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数に加えた場合において、その合計数が当該暴力団の全暴力団員の人数の五分の一を超えることとなる者より上位階層に属していること(三号)のいずれかに該当することである。

原告についてこれをみると、会長である富永は、同規則二条一号に規定する暴力団を代表する地位にある者に該当する。

原告において総長会を構成し、又は顧問的立場にある最高顧問、会長代行、理事長、副会長、本部長、総長(以上合計一三人)は、総長会又は顧問的立場において、組織運営についての重要事項の決定に関与する者であり、同条二号に規定する原告の運営を支配する地位にある者に該当する。

そして、これらの者に、組織運営委員(三六人)及び理事(四四人)を加えると、合計九四人となり、右人数は、全構成員(約五七〇人)の五分の一を超えないが、これより下位の地位の階層にある幹事(約一三〇人)を加えると、全構成員の五分の一を超えることとなる。

組織運営委員及び理事は、組織運営委員会、理事会を構成し、その立場で一家の構成員に対して指示を伝達し、また、その配下に傘下組織(組)を有する場合、その構成員に対して指示命令をすることができる地位にあると認められるので、組織運営委員及び理事は、同条三号に該当する。

以上から、原告において、同条に規定する幹部に該当する者は、会長、最高顧問、会長代行、理事長、副会長、本部長、総長、組織運営委員、理事であり、その人数は九四人である。

そして、原告の幹部九四人のうち、暴対法三条二号に規定する犯罪経歴保有者は四八人であり(乙四三号証、四七号証の一の一、二、二の一、二、三の一、二、四ないし一三、一四の一、二、一五の一、二、一六の一、二、一七、一八の一、二、一九の一、二、二〇の一、二、二一ないし二四、二五の一、二、二六の一、二、二七、二八、二九の一、二、三〇ないし四二、四三の一、二、四四ないし四七)、その比率は51.06パーセントに上るところ、右数値は、暴対法三条二号により同法施行令一条に定める集団の人数の区分が九〇人から九四人までについて同法施行令一条の定める犯罪経歴保有者比率8.34パーセントを大きく超えるものである。

したがって、原告は、暴対法三条二号の比率要件を満たしているということができる。

(3)  暴対法三条三号(団体要件)該当性

原告の組織は、前記のとおり、会長、最高顧問、会長代行、理事長、副会長、本部長、総長、組織運営委員、理事、幹事、その他の構成員により構成されており、このうち総長以上の者(総長でない最高顧問を除く。)は総長会を、組織運営委員は組織運営委員会を、理事は理事会と称する幹部組織をそれぞれ構成している。

総長は、各一家の長であり、一家の構成員に対する指示ができる地位にある。組織運営委員及び理事は、各一家の幹部であり、一家の構成員に対する指示ができる地位にあるほか、それぞれ参加組織の長(組長)である場合は、その配下の構成員に対して指示命令することができる地位にある。また、幹事は、各一家の幹部であり、その参加組織(組)の幹部にもなっている場合がある。そして、その他の構成員は、それぞれ傘下組織の構成員となっている。

このように、原告は、会長を頂点として、階層的に構成されている暴力団である。

また、前記のとおり、原告の組織運営の方法は、総長会において重要事項について協議し、意思決定され、右決定事項や指示事項等は組織運営委員会、理事会、幹事会等を通じて末端の傘下組織構成員に伝達されるなど、末端の傘下組織構成員に至るまで会長又は運営を支配する地位にある者による統制が及んでいる。

以上のとおり、原告は、その代表者等の統制の下に階層的に構成された団体であるということができ、暴対法三条三号の団体要件を満たしているといわなければならない。

以上から、原告は、暴対法三条各要件を満たす団体であるということができる。

以上述べたことから明らかなとおり、原告を暴対法三条の指定暴力団に該当するとした被告の判断は適法であり、原告の主張は採用できない。

2  聴聞手続の適法性について

公安委員会は、暴力団の指定をしようとするときは、聴聞を行った上、あらかじめ、当該暴力団が指定の要件に該当するかどうかについて、国家公安委員会の確認を求めなければならない(暴対法五条、六条一項)。

そして、聴聞を行う際には、「指定に係る暴力団を代表する者又はこれに代わるべき者」(以下「代表する者等」という。)に対し、指定をしようとする理由並びに聴聞の期日及び場所が相当の期間をおいて通知され、代表する者等又はその代理人は、聴聞に際して、意見陳述及び証拠提出をすることができるとされている(同法五条二項、三項)。

指定は、暴力団に対して一定の法律上の位置付けを与える行政処分であるところ、代表する者等は、当該団体を支配する地位にあり、その団体について、最もよく知悉している者であるから、当該団体が指定の要件に該当するか否かについて、団体の立場に立って意見を述べることがふさわしい者である。これに対し、個々の構成員は、指定の効果としては、法の禁止行為を犯した場合に当該行為を行ったことについて、公安委員会の命令を受けることになるという義務を生じるにすぎず、かつ、団体全体の性格等について知悉する立場にあるものでもない。そのため、団体を指定する場合には、代表する者等を対象として聴聞を行うこととすれば必要かつ十分であるとされたものである。

前記のとおり、本件聴聞手続の通知は、聴聞通知書に、原告代表者富永に対して指定をしようとする理由並びに聴聞の期日及び場所を記載して通知され(通知から聴聞まで約二〇日間の期間があった。)、聴聞期日には、原告の傘下組織である二代目富永一家総長上江洲丈二が富永の代理人として出席し、意見を陳述しており、同手続において、違法性を疑わせる事情はうかがえない。

なお、原告代理人が、意見陳述に際し、被告に対し、陳述を行う前提として、認定資料等の開示を求めたところ、被告においてこれを拒絶したことが認められるが、聴聞手続は、右のとおり、指定をしようとする団体を代表する者等に、意見の陳述及び証拠の提出をさせる機会を与える手続であって、被告が認定する際に使用する具体的資料を開示することまで認めたものではないので、これを拒否しても何ら違法なものではなく、原告の意見陳述を不当に制限したともいえない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

3  憲法違反の主張について

(一) 憲法一四条違反の主張について

原告は、①暴対法が、指定暴力団に加入していることのみを根拠に、その構成員に対し、一般市民とは異なる行動の自由の制限を課すことができるとしていること、②暴対法三条二号の要件を設けることにより、犯罪経歴を有する者の結社の自由を著しく制限しているが、犯罪経歴を有することを理由に、そのような自由の制限を課すことができるとしていることは、それぞれ憲法一四条に違反すると主張する。

(1) ①の主張について

憲法一四条一項は、国民に対して絶対的な平等の取扱いを保障したものではなく、合理的理由のない差別をすることを禁止したものであって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理的理由を有する限り、何ら同条に違反するものではない。

前記のとおり、暴力団の寡占化、大規模化の状況の下に、対立抗争事件が頻発し、抗争において、けん銃等を使用することによって、何ら関係のない一般市民が巻き添えとなる危険がますます高まる状況にあり、また、現行法令に抵触しない方法で敢行される暴力団員による不当行為(民事介入暴力)は、現行法規の適用では十分に対応し難く、これらに対しては、新たな立法による対応が必要であった。暴対法は、このようなことから検討され、立法化されたものであり、その立法趣旨は、市民生活の安全と平穏の確保にあり(同法一条)、その究極の目的は、国民の自由と権利を保護することにある。

そして、同法においては、右目的を達成するため、指定暴力団員について、反社会的かつ不当な行為を禁止し、違反等があった場合は、行政命令によりその違反行為を防止することとした。すなわち、指定暴力団員が、指定暴力団の威力を示して行う暴力的要求行為(同法九条)、未成年者に対し、指定暴力団に加入することを強要、勧誘し、もしくは脱退を妨害すること又は人を威迫して指定暴力団に加入することを強要、勧誘し、もしくは脱退を妨害すること(同法一六条)、指定暴力団の事務所に付近の住民等に不安を覚えさせるような看板等を掲示すること、事務所又はその周辺において著しく粗野又は乱暴な言動を行うこと、人に対し債務の履行等を行う場所として指定暴力団の事務所を用いることを強要すること等(同法一八条)を禁止するとともに、指定暴力団員が右行為に違反した場合は、当該行為の中止等を行政命令によって規制し(同法一一条、一七条、一九条)、また、指定暴力団相互間の対立抗争が発生した場合において、指定暴力団の事務所を当該指定暴力団員の集合の用、対立抗争のための謀議、指揮命令等の用又は凶器の製造、保管の用等に供することを規制した(同法一五条)。

右のように暴対法により指定暴力団員が規制される行為は、いずれも暴力団員に特有の行為であり、しかもそれ自体反社会的かつ不当な行為であって、市民生活の安全と平穏を確保するためには、規制の必要性の高いものといえる。

以上からすれば、暴対法による指定暴力団員の行為に対する規制は、合理的な理由に基づくものであり、原告の主張は採用できない。

(2) ②の主張について

暴対法は、同法により規制の対象となる暴力団員を特定する手法として、暴力団の指定処分という方法を採っているが、同法三条二号は、一般的に暴力団には、暴力的不法行為等による犯罪を犯した者が著しく多く含まれているという特性に着目し、これを要件として、同要件に該当する暴力団だけを指定することとしたものである。右取扱いには、前記のとおり合理的な理由があり、合理的な理由のない差別的取扱いではないので、②の主張もまた採用できない。

(二) 憲法二一条(結社の自由)違反の主張について

また、原告は、前記第三の四の3の

(一)記載の①及び②は、結社の自由を定める憲法二一条にそれぞれ違反すると主張する。

暴対法は、暴力団という団体を、反社会的な団体として指定することにより、指定された団体の構成員は、一定の反社会的な不当な行為を行うことが禁止されるという法的効果が生じるもので、その意味では指定処分が結社の自由を制限する側面を有することは否定できない。

しかしながら、前記のとおり、憲法の保障する結社の自由は、あらゆる場合に無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けるのであり、そのような自由に対する制限が、必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。

そして、暴力団の指定処分は、暴対法による規制の対象となる暴力団員を特定するための処分であり、これによって保護しようとする利益は、暴力団員による暴力的要求行為又は暴力団事務所付近における迷惑行為、対立抗争により侵害される市民生活の安全と平穏であり、昨今の暴力団員による民事介入暴力行為や対立抗争の実態、市民の要望に鑑みれば、右行為を規制し、市民生活の安全と平穏を確保することが強く求められる。

他方、暴対法は、暴力団の結成や自発的な加入自体を規制するものではなく、また、団体の解散や活動の制限を課すわけではないので、右指定処分によって、暴力団が指定暴力団として法律上、一定の性格を持つ団体として位置づけられても、これによって、団体の結社自体が直接規制されるものではない。

そして、暴対法は、指定された団体の個々の構成員の行為を規制するものであるが、これらについても、当該不当行為を直接処罰するのではなく、中止命令等の行政命令によって対応し、これに従わない場合に罰則規定が適用される(法定刑も一年以下の懲役や五〇万円以下の罰金と比較的軽いものである。)にすぎない。また、暴力団の指定に当たっては、暴力団特有の団体的特徴を法文により明示し、適用範囲を限定するとともに(犯罪経歴保有者の比率要件は、その際に使用される。)、審査専門委員制度(同法二七条)、不服申立制度(同法二六条)を設け、趣旨に逸脱した指定がなされることを防いでいる。

以上の点からすると、暴対法の指定制度は、その目的、制度趣旨、規制方法等に照らして必要かつ合理的なもので、憲法二一条に違反するとはいえないのであり、原告の主張は採用できない。

第四  結論

以上から、原告の主張はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官木村元昭 裁判官村越一浩 裁判官生島恭子は、転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官木村元昭)

別紙

1 次のア及びイの理由から、沖縄旭琉会がその威力をその暴力団員に利用させ、又はその威力をその暴力団員が利用することを容認していると認められるので、沖縄旭琉会が法第三条第一号に該当すると認めること。

ア 沖縄旭琉会の多数の構成員が、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、沖縄旭琉会に所属している旨を告げ、その他沖縄旭琉会に所属していることを利用して恐喝、強要等に当たる行為等を行っていることから、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、沖縄旭琉会の威力を利用していると認められること。

イ 沖縄旭琉会は、その暴力団員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとすることに関連して、他の暴力団との間に暴力行為を伴う対立を生じさせ、又は生じさせようとしていると認められること。

2 沖縄旭琉会の理事以上の地位にある幹部である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令第一条の表九〇人から九四人までの項の比率の欄に定める8.34パーセントを越えるものであることから、沖縄旭琉会が法第三条第二号に該当すると認めること。

3 沖縄旭琉会においては、代表する地位、運営を支配する地位(総長等)その他の地位の階層で構成される団体であることから、法第三条第三号に該当すると認めること。

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